こんにちは、元生活保護ケースワーカーの坂本と申します。
昨今、生活保護における扶養照会の見直しが政府によって議論をされています。
現在の生活保護法においては親族の扶養が保護に優先することが明文化されています。
これにともない生活保護を受給した方の親族に対して福祉事務所が扶養照会を行うのです。
この「扶養照会が生活保護の申請をためらう原因になっている」ことがここのところ問題となり扶養照会のあり方の見直しを検討しているとのこと。
この扶養調査の見直し問題について元ケースワーカーの私はどう考えるかについて簡単に記事を書いていきます。
扶養調査とは
扶養調査とは、生活保護の受給者の親族(概ね三親等以内)に対して扶養の可否を問うもので、一般的には文書にて送ります。
(戸籍を辿って福祉事務所が送るものです)
誤解を恐れず簡単にいうと「あなたの親族の○○さんが生活保護になったので扶養ができますか」
という手紙を送るものになります。
扶養照会が生活保護の申請をためらう一因なのは間違いない
生活保護ケースワーカーとして、数百人ほど生活保護の受給に際して面談を行ってきました。
その中で生活保護における扶養義務、扶養調査について毎回説明をしていました。
少なくとも自分の経験ではその話を聞いて生活保護受給を諦めたというケースは存在していません。
ただ話をするとほぼ100%の方が動揺されたりあからさまに嫌な顔をしたりなど、少なくとも精神的にショックを受けていたように感じました。
扶養義務を一律廃止にすればいいのか?
それならば扶養義務を一切なくせばいいのか?
生活保護の実務に携わっていた者として扶養調査の完全廃止は現実的に困難だと思います。
理由としては以下の通りです。
扶養は「金銭的扶養」と「精神的扶養」に分かれる
一概に「扶養」といっても生活保護上の扶養は「金銭的扶養」と「精神的扶養」に大別されます。
「金銭的扶養」はその名の通り親族が生活保護受給者に対してお金を渡すもの。
親が生活保護を受けていて、遠方に住んでいる子が本人も生活に余裕はないが月に数万円ずつ振り込むなど。
一般に言うところの仕送りにと考えていただければと思います。
(この場合仕送り分は原則収入認定とされます)
「精神的扶養」は、身の回りの世話や連絡先になること。
高齢の親の通院を娘が行ったり、定期的に電話連絡をしたりというものです。
福祉事務所としては「精神的扶養」という繋がりを持っていたい
扶養照会見直しに関するニュース記事などを読む限りでは「扶養照会を送ったところで仕送りなどの支援につながらない」という内容で扶養照会を批判する内容がありました。
これは事実だと思います。
扶養照会を送ったところで金銭的な援助が得られる可能性は限りなく低いです。
しかしながら、福祉事務所は「精神的扶養」の方を気にしています。
重病・死亡などの本人の重大時や遠方の病院への通院など本人を助けてくれる身内を福祉事務所としては知りたいのです。
生活保護を受給されている方の多くは友人や親族などが少なく孤独な生活を強いられています。
個人的に言えば絶対的な貧困よりも孤独の方が生きて行くことを辛くする要因になるのではないかと思うほど。
親族の中でも誰か1人ぐらい、半年に一度でもいいので電話してくれる相手がいれば本人はどれほど救われるかはわかりません。
また、脳梗塞でいきなり倒れて意識不明の植物状態になった場合の延命措置の有無についてなど親族でないと判断できないものもあります。
こういった点から福祉事務所としては「精神的扶養」という繋がりを持っていたいのです。
まとめ:扶養の見直しは必要だと思うが一律の廃止は受給者本人のためにならないと思う
まとめると、扶養照会の方法の見直しは必要だと思います。
扶養照会が重荷になって生活保護の捕捉率を下げている可能性は0ではないでしょう。
しかしながら、これをもって扶養照会を一律に廃止した場合、「精神的扶養」という繋がりが保てなくなり、「福祉事務所と受給者の親族」「受給者と親族」の関係を作ることができなくなってしまいます。
これは福祉事務所の事務・ケースワークの執行難易度を上げることは確実です。
また、扶養調査によって数十年ぶりに音信不通だった受給者と本人が連絡を取るようになったケースも多くあります。
扶養調査がなくなることで本人にとっても精神的扶養をしてくれる親族との関わりがなくなる可能性があり、扶養調査の一律的な廃止は受給者本人のためにならない可能性も考えられます。
生活保護の扶養調査見直し問題については受給者のためになるような制度改革を政府にお願いしたいものです。